産業保健スタッフによるメンタルヘルスケア(産業医・衛生管理者・保健師・看護師・臨床心理士・産業カウンセラー)

医療従事者の心身の健康は、専門職であるがゆえの対策の遅れが目立ちます。しかし、厚生労働省の「事業場における労働者のこころの健康づくりのための指針(=メンタルヘルス指針)」の対象は、一般企業ばかりではありません。今なお、過酷な労働条件が社会問題となっている医療現場にこそ、対策が求められているともいえるでしょう。
そこで、本記事では、めんたるへるす対策で重要な4つのケアを推進していくための要ともいえる「産業保健スタッフと事業者の役割」について考えてみたいと思います。

産業保健スタッフとは

メンタルヘルス指針での産業保健スタッフとは、産業医、衛生管理者、保健師、看護師、心理専門スタッフ(臨床心理士、産業カウンセラー等)を指します。昨今の人員削減の時代の流れからか、いくら法律(労働安全衛生法)で言っての規模以上(常時50名以上の従業員数)の事業場での産業医・衛生管理者の選任が義務づけられていても、専任スタッフを配置するのは一部の大企業に限られ、中小企業などでは、大学や病院、診療所に所属の産業医が非常勤で就き、衛生管理者に人事労務関係者、ほかに看護職(看護師や保健師)が専任スタッフでいれば、恵まれているほうかもしれません。




病院も同様です。こういった専門スタッフを患者ケアのためには配置していても、病院職員の健康づくりのための配置となると難しく、また配置されているところでも、他の業務との兼務になりやすい面をもっています。

しかし、こうした厳しい人員配置の中でも、ラインマネジャーを「気づき、つなげるKey Person」とすれば、産業保健スタッフはその気付きを受けとめ、事業所内の心の健康問題への対処システムを調整していく「中心的存在」としての役割が求められています。メンタルヘルス指針における産業保健スタッフの具体的な役割は、①労働者に対する教育研修、②職場環境等の改善、③労働者等からの相談への対応、④職場適応・治療および職場復帰への指導、⑤ネットワークの形成および維持、と多岐にわたります。まさに職場全体のメンタルヘルスシステムの調整役と言えるでしょう。実際問題として最も重要かつ難しい問題は、産業保健スタッフが、こうした役割を果たせる環境を整えることかもしれません。それは、事業者の理解と協力なくしては進まない問題です。

安全配慮義務と労働災害認定

一方、わが国の労働衛生行政全体の施策を見てみると、労働災害を減らすことに重点が置かれてきました。不幸な労働災害が起こるたびに法律や指針が整備され、産業保健スタッフに求められる役割も多様化してきたと言えます。

メンタルヘルス指針ができた背景も例外ではありません。自ら命を絶つ人が3万人を超え、社会問題化した1998年以降、うつ病に代表される精神障害や自ら命を絶つ人の労災認定の申請が急増するのに並行するかたちで通達や指針が出されています。1999年の「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」では、メンタルヘルス不全および自ら命を絶つことに関する業務上外の判断基準が全面的に見直され、2001年には「脳・心臓疾患に業務上外の判断基準を変更する通達」(発症前の約6か月間の過重な業務負荷、つまり時間外労働等と発症との関連性の強さを判断する基準が明確に示される)、2002年には「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」(過重労働による脳・心臓疾患の発現を防ぐため、時間外労働時間の削減、健康管理に係る措置の徹底を事業主に求める)と続いています。

厳しさを増す一方の労働環境を改善し、管理していくことが事業者の「安全配慮義務」として求められているのです。この安全配慮義務とは、最高裁判所の判例で確立された概念です。定義は、「事業者が労働者に負っている労働契約上の債務で、事業者が労働者に対し、事業遂行のために設置すべき場所、施設もしくは設備などの施設管理または労務の管理にあたって、労働者の生命および健康などを危険から保護するよう配慮すべき義務」とされています。また、この安全配慮義務の範囲は、過去の判例の影響を受けて「義務に直接起因する健康障害を起こさないこと」から「業務に直接起因しているとは言えないが、業務と密接な関連を有する健康障害」に広がってきています。その結果、心の健康づくり対策として事業者に求められる安全配慮義務の範囲が、時間外労働の管理に留まらず、予防から職場復帰までを視野に入れた総合的な組織としての対策にまで広がってきているのです。

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